ゼウスが愛した女性たち
|
ゼウスとの子供
|
||||
メティス (Metis) |
ゼウスとメティスの子供のアテナ |
知恵の女神メティスは、クロノスに飲み込まれたゼウスの兄弟たちを吐き出させる薬を作った。ゼウスはこれをクロノスに飲ませ、ポセイドンやヘラたちを次々と吐き出させた。ゼウスは兄弟たちと力を合わせてクロノスを破り、神々の王になった。 メティスはゼウスの最初の妻になった。しかし、ゼウスは「今度は自分が子供に王座を奪われる」と心配になり、メティスを飲み込んだ。この時メティスはゼウスの子供を身ごもっていた。やがて産み月が来ると、ゼウスは激しい頭痛に襲われた。あまりの痛みに耐えかねて、息子のヘパイストスに頭を叩き割るように命じた。すると、ゼウスの頭から知恵と戦いの女神アテナが飛び出てきた。 メティスはその後もゼウスの体内で生き続け、ずっとゼウスに知恵を授けた。そのため、ゼウスは全知全能の神になれた。 |
アテナ | ||
テミス (Themis) |
テミス(フランクフルト レーマー広場) 目隠しは腕にまいている |
ゼウスの2番目の妻テミスはウラノスとガイアの娘で、法と掟を司る女神である。彼女は手に正義を測る天秤と力の象徴である剣を持ち、「司法の公正さ」を表わしている。また、裁かれる者を貧富や権力など見た目の姿で惑わされないように目隠しをして、「法の前の平等」を示している。ローマ神話ではユスティティア(Justitia:英語のJustice(正義)の語源)と呼ばれる。ゼウスとテミスの子供がプロメテウスである。
ゼウスはヘパイストスに人間の女性パンドラを創らせ、絶対に開けてはいけない箱を持たせてプロメテウスの弟エピメテウスのところに送り込んだ。二人はすぐに結ばれたが、パンドラは箱のことが気になって仕方なかった。そして、ついにその箱を開けてしまった。すると、箱の中から病気、盗み、憎しみなどのさまざまな災いが人間の世界に飛び散った。 |
プロメテウス(Prometheus) ホーラ モイラ |
||
|
時間の三女神ホーラは、秩序の女神エウノミア(Eunomia)、正義の女神ディケ(Dike)、平和の女神エイレネ(Eirene)の三姉妹でテミスの娘たちである。季節の規則正しい移り変わりと人間社会の秩序を司っている。Horaは英語の時間(Hour)の語源である。 「ヴィーナスの誕生」の絵の中で、右側にいるホーラの一人が、生まれてきたヴィーナスに赤いマントをかけようとしている。 |
||||
|
運命の三女神モイラは、クロト、ラケシス、アトロポスの三人姉妹でテミスの娘たちである。 人の運命を「糸の長さ」にたとえている。クロト(母)が糸を紡ぎ,ラケシス(乙女)が糸の長さを測って糸を巻取り,最後にアトロポス(老婆)が割り当てられた長さで糸を切る。それぞれの人間の運命(寿命)は、このように糸の長さで決められている。 神々の運命も、彼女たちが決めている。 |
||||
|
|
ゼウスはティタン神族の女神レトを誘惑した。彼女が身ごもるとゼウスの妻ヘラは怒り、一度でも太陽が当たった場所では出産できないようにした。身重のレトは出産場所を求めてさまよった。ある日、海岸で休んでいると、目の前に島が浮き上がってきた。ずっと海中に沈んでいたその島は太陽に当たったことがなく、レトはそこで子供を産むことができた。この島がデロス島で、生まれてきたのは太陽の神アポロンと狩猟の神アルテミスだった。アルテミスは母に苦痛を与えずに生まれてきたので、安産の神様になった。 この島は、実はレトの妹アステリア(Asteria)だった。彼女はゼウスの誘惑を拒絶し、ウズラになって逃げた。ゼウスは鷹になって追いかけ、追い詰められた彼女は海に飛び込んで岩になった。彼女は海中をさまよっていたが、レトの苦しみを知り、出産場所を提供するために姿を現した。 ヘラのいじめは続いた。ある日レトはリュキア(トルコの南沿岸)の町に立ち寄った。池の水を飲もうとすると、村人たちはそれを許さない。彼女は怒り、「お前たちは生涯この池で暮らすがよい」と叫んだ。すると村人たちは蛙になり、一生水の中で住むようになった。 テーベの王妃ニオベには、7人の息子と7人の娘がいた。彼女は、2人しか子供がいないレトに、自分の多産を自慢した。レトは怒り、アポロンとアルテミスに彼女の子供全員を殺させた。嘆き悲しむニオベを哀れに思ったゼウスは、彼女を岩に変えた。それでも悲しみの涙は止まらず、今でも涙を流している(ニオベの泣き石:トルコの町マニサ)。 |
|||
エウリュノメ(Eurynome) | ボッティチェッリの春(左側の3人が三美神) ウフィツィ美術館 フィレンツェ |
水の女神エウリュノメは海の神オケアノスの娘で、ゼウスとの間に3人の娘(美と優雅の女神カリス、複数形はカリテス Charites)をもうけた。彼女達はアグライア(輝き)、エウフロシュネ(歓喜)、タレイア(花の盛り)の3人でアフロディテの侍女になった。三美神(three Graces)とも呼ばれ、グレイス(Grace)の語源となった。 ボッティチェッリの有名な絵画「春(プリマヴェーラ)」には、中央にアフロディテ、左に三美神が描かれている。 |
アグライア エウフロシュネ タレイア |
||
レダ (Leda) |
ゼウスはスパルタ王の妻レダを見初めた。彼女を忘れられないゼウスは白鳥に化け、鷹に自分を追わせた。レダは必死に逃げ惑う白鳥を見てかわいそうになり、両手を広げて迎え入れた。 やがてレダは卵を産み、卵からクリュタイムネストラとヘレネが生まれた。ヘレネは絶世の美女でトロイ戦争の原因となった女性である。クリュタイムネストラはトロイを攻めたギリシアの総大将アガメムノンの妻となった。ゼウスが化けた白鳥は、白鳥座となった。
←「レダと白鳥(Leda and the Swan)」 |
クリュタイムネストラ ヘレネ(ヘレン) |
|||
|
|
イオはヘラに仕える巫女だったが、ゼウスは我慢できず彼女に手をつけた。ある日2人が雲に隠れて密会していると、そこにヘラが現れた。慌てたゼウスはイオを雌牛に変え、「牛と遊んでいるだけだ」とごまかした。ヘラは、「では、その雌牛を私に下さい」と言って牛を森の奥の木につないだ。そして、絶対に逃がさないように、百の目を持つ怪物アルゴス(Argos)に見張らせた。 困ったゼウスはヘルメスにイオの救出を頼んだ。ヘルメスは笛を吹いてアルゴスの眠気を誘い、その隙にアルゴスを殺してイオを助け出した。ヘラはますます怒り、今度は虻(アブ)にイオを襲わせた。アブは昼も夜もイオを追い回し、イオは必死に逃げた。そして、ついに海を越えてエジプトにたどり着いた。アブの攻撃から解放されたイオは人間の姿に戻り、ゼウスとの子供エパポス(Epaphos)を産んだ。やがて彼女はエジプト王と結婚し、女神イシス(Isis)として崇められるようになった。 アルゴスの死を悼んだヘラは、彼の目をクジャクの羽根に飾って供養した。イオが渡った海はイオニア海と呼ばれるようになった。木星(Jupiter:ゼウス)の4つ衛星にはイオ、エウロぺ、ガニメデ、カリストとゼウスの愛人の名が付けられている。 |
エパポス(Epaphos) | ||
エウロペ (Europe) |
牛に乗るエウロペ(スパルタ考古学博物館) |
エウロペはフェニキア(現在のレバノン:Phoenicia)の美しい王女でゼウスは一目惚れした。しかし、妻ヘラの目が恐ろしい。一計を案じたゼウスはまっ白な牡牛に姿を変えて彼女に近づいた。 不思議な牛に興味をひかれたエウロペは、一緒に遊び、誘われるまま背中に乗った。すると牡牛は静かに歩き始め、あっという間に海に入り、海を横切ってクレタ島に泳ぎ着いた。 牡牛はゼウスの姿に戻って愛を打ち明け、エウロペは3人の子供を産んだ。そのうちの一人がミノス王である。ヨーロッパは、エウロペ(Europe)に由来し、彼女を乗せた牡牛がおうし座となった。 |
ミノス | ||
セメレ (Semele) |
Jove and Semele(ゼウスとセメレ) SebastianoRicci作 |
エウロペの兄カドモス(Kadmos)は、行方不明の妹を探してギリシア中を歩き回った。しかし、彼女を見つけることができず、テーバイにたどり着き、そこの王となった。カドモスの娘がセメレで、非常に美しい女性だった。ゼウスは人間の姿に化けて近づき、やがて彼女はゼウスの子を身ごもった。 嫉妬したヘラはセメレの乳母に化けて、「あなたのお相手は化け物かもしれません。本当の姿を見せてもらいなさい」とそそのかした。セメレはゼウスに真の姿を見せるよう迫り、根負けしたゼウスは雷光を発する本来の姿になった。セメレは一瞬だけゼウスの姿を見ることができたが、まばゆい灼熱の閃光に焼かれて死んでしまった。 セメレのお腹から胎児が取り上げられ、ゼウスの太ももに縫い込まれた。そして3ヵ月後にディオニュソスが生まれた。 |
ディオニュソス | ||
|
アポロンとムーサたち |
ムネモシュネはウラノスとガイアの娘で、ティタン族の一人である。記憶の神で、Memoryの語源になっている。ゼウスと9日間夜を過ごし、9人の文芸の女神ムーサ(英語名ミューズ:Muse)を産んだ。古代の博物館ムセイオンは、文芸の女神ムーサを祀る神殿で、ムーサは音楽(music)や博物館(museum)の語源となった。 アテナはアウロスという笛を作ったが、頬をふくらませて吹く顔がおかしいと笑われた。頭にきたアテナは、笛に呪いをかけて捨てた。その笛を拾ったマルシュアスは笛の名手になり、アポロンの竪琴よりすばらしい音楽だと自慢した。これを聞いたアポロンは怒り、音楽合戦を挑んだ。審判はムーサたちで、勝者は敗者に何をしてもよいことになった。結果はアポロンが勝ち、マルシュアスは生きたまま皮を剥がれた。 |
ムーサ | ||
マイア (Maia) |
ティタン族のアトラスはゼウスによって天球を支える罰が下され身動きできなくなった。アトラスの娘がマイアで、ゼウスが手をつけてヘルメスが産まれた。ヘルメスは成長して、嘘つきと泥棒の神様となった。 マイアは春を司る豊穣の女神で、5月(May)は彼女の名前に由来している。ローマではマイアの祭日(5月1日)に供物が捧げて豊穣を祈った。これがメーデー(May Day)の起源である。 |
ヘルメス | |||
カリスト (Callisto) |
|
カリストは美しい乙女でアルテミスの従者として処女を誓い、毎日狩りに明け暮れていた。ゼウスはカリストを見初め、アルテミスになりすまして近づき思いを遂げた。彼女はゼウスの子を身ごもったが、アルテミスには隠していた。ある日、狩りの途中でアルテミス達は沐浴することにになった。カリストがしぶしぶ衣服を脱いだところ、妊娠がばれてしまった。純潔を尊ぶアルテミスは怒り、彼女を熊に変えてしまった。 木星の第4衛星の名前がカリストである。 |
アルカス | ||
ダナエ (Danae) |
|
アルゴス王アクリシオスは「娘の子供に殺される」という神託を受けた。王は娘のダナエを城に監禁し、男が近づけないようにした。ところがダナエを見そめたゼウスは黄金の雨になって彼女に降り注いだ。
やがてペルセウスが生まれた。 |
ペルセウス | ||
アルクメネ(Alkmene)
|
|
ペルセウスの孫娘でミケーネ王女のアルクメネは叔父のアムピトリュオン(Amphitryon)と結婚した。アムピトリュオンが戦争に出かけた隙に、ゼウスはアムピトリュオンに化けてアルクメネのところに忍び込んだ。ゼウスは彼女と一夜をともにし、ヘラクレスが誕生した。 | ヘラクレス |