ギリシア神話
神々の誕生
 この世界はカオス(Chaos)だった。カオスとは光も形もない「虚空」あるいは「混沌」のことで、何もないところからガイア(大地の女神)、タルタロス(冥界)、エロス(愛の神)がうまれた。ガイアは天空の神ウラノス(Uranus)や海洋神ポントスを産んだ。

 ガイアはウラノスと結ばれ、地上に山や木・花、鳥や獣を、天には星を産み出した。やがてウラノスが降らせた雨で湖や海ができた。天(ウラノス)は大地(ガイア)を覆った。ガイアは海の神オケアノスや大地の神クロノス、豊穣の神レアムネモシュネテミスなど12人のティタン神族を産んだ。
 続いてガイアは、目が一つのキュクロプス族、100の手と50の頭を持つヘカトンケイル族を産んだ。
 ウラノスはこれらの子供を嫌い、生まれるとすぐにタルタロス(冥界)に閉じ込めた。


 ガイア(アラパチス博物館、ローマ)

クロノス

 ガイアはウラノスに腹を立て、息子のクロノスに斧を渡して復讐を頼んだ。ある夜、ウラノスがガイアのベッドにのこのことやって来た。部屋の隅に隠れていたクロノスは襲いかかり、ウラノスの男根を切り落として海に投げ込んだ。この時、海にこぼれた精液からアフロディテが生まれ、大地にしみ込んだ血から巨人族ギガスが生まれた。クロノスはウラノスに代わって天地の支配者となった。

ギリシア語
ラテン語
英語
星座
ガイア(Gaia)
テルス(Tellus)
アース(Earth)
地球
クロノス(Kronos)
サトゥルヌス(Saturnus)
サターン(Saturn)
土星
ウラノス(Uranos)
ウラヌス(Uranus)
ウラヌス(Uranus)
天王星
エロス(Eros)
クピド(Cupido)
キューピッド(Cupid)
ティタン(Titan)
ティタン(Titan)
タイタン(Titan)
土星の衛星
ハデス(Hades)
プルート(Pluto)
プルート(Pluto)
冥王星


ウラノスの男根の切断
(The Mutilation of Uranus by Saturn ジョルジョ・ヴァザーリ作 フィレンツェ ヴェッキオ宮殿)

 放射性物質のウランやウラニウムはウラノスが語源で、プルトニウムはプルートが語源である。

ゼウスの誕生とティタノマキア
 クロノスは妹レア(Rhea)を妻にした。レアは、ヘスティアデメテルヘラの三姉妹とハデスポセイドンを産んだ。クロノスは「将来お前も自分の子供に殺される」というウラノスの呪いを信じ、子供が産まれるとすぐに呑み込んだ。悩んだレアは秘かにクレタ島に渡り、6番目の子ゼウスを産んだ。 そして、大きな石を産着にくるんでクロノスに渡した。クロノスはその石を赤ん坊と思って呑み込んだ。
 ゼウスはクレタ島で女神アマルテイア(amalthea)のやぎの乳を飲んで育った。成長したゼウスは思慮の女神メティス(metis)に作らせた嘔吐薬をクロノスに飲ませ、兄姉達を吐き出させた。

 ゼウスたちオリンポス12神とクロノス率いるティタン神族の戦いが始まった。この戦いはティタノマキアと呼ばれる。10年におよぶ戦いは最終的にゼウスたちが勝利し、ティタン神族をタルタロス(冥界)に追放した。ただ一人、力持ちのアトラス(Atlas:うしかい座)はタルタロスに追放されず、西の果てで天と地が接触しないように天空を支える罰が与えられた。

 ティタンはタイタニック(Titanic)、タイタン(Titan)、金属のチタンの語源である。また、アトラスの話はインドにまで伝わり古代仏教遺跡に見ることができる。


天空を支えるアトラス

産着にくるんだ石をクロノスに渡すレア
Rhea presenting Cronus the stone wrapped in cloth
ギガントマキア

 ガイアは、我が子ティタン神族がタルタロスに閉じ込められたことを怒り、巨人族ギガスをオリンポスの神々に差し向けた。これがギガントマキアである。ギガスは神々には殺されないという力を持っていた。そのため、ゼウスたちは人間の血を引くヘラクレスを仲間に引き入れて打ち負かした。
ギガス:Gigas】複数形ギガンテスGigantes,ジャイアント(Giant)の語源

 ガイアは、いい気になっているゼウスたちを懲らしめるため、巨大な怪物テュポン(Typhon)を送り込んだ。オリンポスの神々は驚き、動物に姿を変えてエジプトに逃げた(エジプトの神々は動物の姿をしている)。

 ゼウスは一人で戦った。テュポンは運命の三女神モイラたちを脅し、どんな願いも叶う「勝利の果実」を奪って食べた。すると、テュポンは急に力を失った。モイラが渡した果実は、決して望みが叶わない「無常の果実」だったのである。ゼウスはテュポンをシチリアに追いつめ、エトナ山に閉じ込めた。それ以来、テュポンがもがくとエトナ山が噴火した。


巨人と戦うディオニソス
ペルセウス
(Perseus)

 ギリシャ南部の都市アルゴスの王アクリシオスは「娘の子供に殺される」という神託を受けた。王は年頃になった娘のダナエを城に監禁し、男が近づけないようにした。ところがダナエを見そめたゼウスは黄金の雨になって彼女に降り注いだ。やがてペルセウスが生まれた。

 驚いたアクリシオスは、ダナエと子供を箱に入れて海に流した。箱はセリポス島に漂着し二人はここに住みついた。島の王ポリュデクテスはダナエを好きになり、邪魔なペルセウスを始末するためメドウサの首をとってくるように命じた。


「ダナエ」 オラツィオ・ジェンティレスキ作
クリーブランド美術館(クリーブランド アメリカ)

メドゥーサ
(Medusa)

 メドゥーサゴルゴン三姉妹の一人で、顔は醜く、イノシシの牙と歯を持ち、髪は毒蛇、その顔を見た者は恐ろしさのあまり石になった。

 ペルセウスは、ヘルメスから空を飛べる靴とメドゥーサの首を切ることができる鎌形の剣を借りた。また、アテナからはよく磨いた(アイギス)をもらって出発した。やがて西の果てにメドゥーサを発見し、相手の顔を見ないように、楯にその姿を映しながら近づいた。そして、鎌の剣でメドゥーサの首を切り落とした。すると傷口から天馬ペガサスが飛び出した。ペガサスはメドゥーサとポセイドンの子供だった。

【ゴルゴン三姉妹(Gorgon)】強い女:ステンノ(Sthenno)、さまよう女:エウリュアレ(Euryele)、支配する女:メドゥーサ(Medusa)の3人。姉妹は髪がきれいな美しい女性だった。メドゥーサは「アテナよりも私の髪がきれい」と自慢したため、怪物にされてしまった。アテナに抗議した二人の姉も怪物にされてしまった。

【アテナの盾:アイギス(Aegis)】あらゆる邪悪を払う楯(胸当て)でゼウスを育てたアマルテイアの皮が張られている。英語読みはイージスで、防空能力の高い駆逐艦、イージス艦の語源。


メドウサと戦うペルセウス(フィラデルフィア美術館)

アンドロメダ(Andromeda)

 ペルセウスがメドゥーサの首を携えての帰り道、海の岩に縛られたアンドロメダを見つけた。アンドロメダはエチオピア王妃カシオペアの娘。カシオペアは「自分の娘は海の神の娘より美しい」と自慢したため海の神ポセイドンの怒りに触れ、鯨の怪物ケートスの生贄にされた。

 ペルセウスはメドゥーサの首を見せてケートスを石に変え、アンドロメダを自分の妻にした。セリポス島に戻ったペルセウスは、王に約束のメドゥーサの首を渡した。王も一瞬のうちに石になった。ペルセウスの子供にペルシア王家の祖となったペルセースがいる。ペルシアの名はペルセースに由来している。

 その後、ペルセウスはアルゴスに戻り、アルゴスとミュケナイの王になった。ある時、ペルセウスは競技会に出場し円盤を投げた。円盤は観客席の老人を直撃し、老人は死んだ。その老人こそが「娘の子供に殺される」との神託を受けた祖父のアクリシオスだった。


アンドロメダの岩(イスラエル ヤフォー)
ヘラクレス
(Hercules:ハーキュリーズ)

 ゼウスがペルセウスの孫のアルクメネを誘惑して産ませた子供がヘラクレスである。ヘラはヘラクレスを嫌い、乳を与えなかった。ゼウスの命を受けたヘルメスはヘラクレスを抱いてヘラの寝室に忍び込み、ぐっすり眠るヘラの乳を吸わせた。ヘラクレスがあまりに強く吸ったため、ヘラは痛さに眼をさましヘラクレスをはねのけた。ヘラクレスはヘラの乳を飲んだため不死身となり、こぼれ落ちたヘラの乳が天の川(Milky Way)になった。

 ヘラのいやがらせは続き、ヘラクレスが眠っているところに毒蛇を投げ入れて殺そうとした。しかし、ヘラクレスはその蛇を手でつかんで殺してしまった。

 成長したヘラクレスは妻や3人の子供と平穏に暮らしていた。これが気に入らないヘラは、ヘラクレスを狂わせて、妻や子供を殺させた。正気に戻ったヘラクレスは、罪を償うためにミケーネ王のエウリュステウスに指示された12の冒険を行った。


 ヘラクレスと蛇

ヘラクレスとケンタウロス(半人半馬の怪物)
ダフネ(Daphne)

 ダフネはギリシア神話に登場する女神(妖精、ニンフ)である。エロスが弓で遊んでいると通りがかったアポロンが「子供が弓をおもちゃにしてはいけなない」とからかった。怒ったエロスはアポロンに金の矢を、そばにいたダフネに鉛の矢を放った。金の矢は恋に落ちる矢で、鉛の矢はそれを拒む矢だった。

 アポロンはダフネに恋をして追いまわした。ダフネは必死で逃げまわった。アポロンがダフネを河に追いつめ、腕をつかもうとした時、彼女は「私の姿を変えて!」と叫んだ。河の神のダフネの父は、彼女を月桂樹に変身させた。

 アポロンは悲しみ、月桂樹の葉で月桂冠を作り、ずっと頭にかぶっていた。そして、秀でた者にアポロンのシンボルである月桂冠が与えられるようになった。

 月桂樹はギリシア語でダフネ、英語はローレル(Laurel)、フランス語はローリエ(Laurier)。


「ダフネを追跡するアポロン」 ベルギー王立美術館
オイディプス
(Oedipus)
 テーバイの王妃イオカステは男の子を産んだ。王ライオスが伺いをたてると「自分の子供に殺される」という神託がおりた。生まれたばかりの子供を殺すのはしのびなく、その子の足に傷をつけて山に捨てた。隣国コリントスの王がその子を拾い、オイディプス(腫れた足)と名付けた。

 彼は立派に成人したが、「王の実の子ではない」という噂が流れた。神に伺いを立てると「自分の父親を殺し、母親と結婚する」という神託がおりた。彼は、実父と信じているコリントス王を殺してはならぬとコリントスを出奔した。

 彼が狭い山道を歩いていると、テーバイ王ライオスと出会った。二人は道をゆずる、ゆずらないで激しい争いになり、実の父とは知らずにライオスを殺してしまった。テーバイの近くまでくると、人々を苦しめているスフィンクス(Sphinx)が立ちふさがった。スフィンクスは、女性の顔をしたライオンの怪物で、人に謎をかけ、解けない者を食べていた。スフィンクスはオイディプスに謎かけをしたが見事に解かれ、悔しさのあまり死んでしまった。テーバイの民衆は喜び彼を王に迎えた。そして前王の妻のイオカステと結婚した。彼女が自分の母だとは夢にも思わなかった。

 テーバイを疫病が襲った。神に伺いをたてると「ライオス殺しの犯人をテーバイから追放するように」という神託を得た。誰が犯人か調べるとオイディプスが浮かび上がってきた。それを知った母のイオカステは首をつり、絶望したオイディプスは自分の眼をえぐってテーバイを去った。

 スフィンクスの謎:「朝は4本足で、昼は2本足で、夕べには3本足で歩くものは何か?」。答えは「人間」。赤ん坊の時は4本足ではい回り、成長すると2本足で歩き、老人になると杖をつくから3本足になる。


「Oedipus and the Sphinx」 メトロポリタン美術館

 オイディプス王は、ギリシャ三大悲劇詩人のソポクレス(Sophocles)が書いた戯曲である。

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【参考資料】
ギリシア神話【神々の世界】松島道也著 川出書房
ギリシア神話【英雄たちの世界】松島道也著 川出書房